再会

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再会

 三日後、雨の降る日に将彦は東に教えられた住所へと向かっていた。東の自宅兼レコーディングスタジオのある場所だった。  将彦は、高級住宅街の一角に白い壁の四角い建物と、その奥に同じく白い壁で、地中海の教会を思わせるような青塗り屋根のある建物を見つけた。四角い建物の横には車を四台止められる駐車場があり、そこには東の黒いRV車もあった。スタジオの入り口と思われる自動ドアの横の看板には「The East Production of Music」とあった。  将彦は看板の横にあるインターホンのボタンを押した。  「はい。東音楽制作社です」  すぐに女性の声が応対をした。  「あの、今日、東徹さんに来るように言われた、金村といいます」  「承っております。どうぞ」  すると、ガラス製の自動ドアが開いた。  将彦は傘立てに傘を入れ、恐る恐る中へと入った。  入り口から奥の方へと廊下が続いていた。その両側にはいくつかのドアがあった。その一番手前のドアから、先程の声の主と思われる女性が現れた。  「こんにちは。金村将彦さんでいらっしゃいますね?」  「はい」  「金村さんがこちらにいらした際は応接室に通すように言われておりますので、ご案内致します」  そう言うと、女性は廊下の奥へと歩いていった。マットで靴底を拭いて、将彦は急いで彼女に付いて行った。  廊下の一番奥、右手の部屋の前で女性は止まった。そしてドアを開くと将彦に中へ入るよう促した。  「それでは、こちらでおくつろぎいただき、お待ちください。東はもう少しで来られると思います。飲み物をお持ちしますが、何がいいですか?」  将彦は少し悩んで、ホットコーヒーを頼んだ。  「分かりました。それではしばらくお待ち下さい」  そう言って受付の女性は部屋から出ていった。  将彦は、東に言われるがままここまで来てしまった。彼はまるで、足が宙に浮いているかのような思いでいた。  これから初めてスタジオで歌うことになる。知らないスタッフの人たちがいる中でマイクに向かって歌うことを、将彦は想像した。わざわざ自分の歌のために貴重な労力と時間を使わせることを彼はまだ申し訳なく思っていた。
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