秘密

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すぐ目の前に、剣吾の気配。 「唯人。」 「……」 そっと宥めるような剣吾の声。 俯いたまま、俺の方へ伸ばされた剣吾の手を目で追った。 優しい手が俺の手に触れて、固く力のこもった指を一本一本解いてゆく。 解かれた俺の指の間に自分の指を絡めて、もう片方の手を俺の背に回して引き寄せた。 「!」 「へへ、唯人キャッチ―。」 引き寄せられて、ポフッと剣吾の胸へダイブした。おどけた様に笑いながら、ぎゅうっと抱き締められる。 「あれ、抱き締め返してくれないの?」 「…うるさい。」 握られていない方の手でキュッと剣吾の服の裾を掴んだ。 「ふはっ。唯人かわいー。」 「は?可愛くないし。」 「可愛いよ―。もう、放したくない。」 そう言って俺の頭に顔を埋める剣吾。 あ。コラ、匂いを嗅ぐな。 「…心配しなくても、もう逃げないって言ったろ。」 「分かってるよ。そうじゃなくてさ…」 言葉の続きを呑みこんで、繋いだ手と抱き締める腕にギュッと力を込めた剣吾。 まるで、縋るように。 俺の存在を確かめるように。
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