秘密

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俺が固まって動けないでいると、剣吾がふっと小さく微笑んだ。 けれどその笑顔にいつもみたいな眩しさはなくて。 儚げな微笑みに、ぎゅうっと強く胸を締め付けられた。 「ねぇ、唯人。」 「…な、に?」 胸が苦しくて上手く声が出ない。 苦しくて、悲しくて、涙が出そうになる。 本当に辛いのは、辛かったのは剣吾なのに。 「俺の秘密、聞いてくれる?」 「…秘密?」 「そう。誰にも…特に唯人にだけは、伝えずに隠し通そうと思ってた秘密。」 俺にだけ、話せない秘密? そんなものがあったなんて、全然知らなかった… 『俺にだけ言えない』 その言葉にズキンと胸が痛んだ。 剣吾は変わらず小さな笑みを浮かべたまま、優しく俺に語りかけ続ける。 「だからさ、俺がその秘密を話したら、唯人も俺に全部話して。」 「全部?」 「そう。 どうして俺を避けるようになったのか。唯人が今、何を感じて何を思ってるのか全部。 それが本当の唯人の気持ちなら、どんな事だって俺は受け止めるから。」 静かに目を閉じた穏やかな顔が近づいてきて、コツンと額と額がぶつかった。 まるで祈るような、誓いを立てるような仕草―… 合わさった額から、目の前にいる彼の真剣さと覚悟の様なものが伝わって来るような気がして、俺も静かに目を閉じて「わかった。」と答えた。
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