秘密

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    ――…『愛してる』 優しい声が鼓膜を揺らして、その音を捉えた瞬間、俺はバッと身体を離して剣吾を見た。 剣吾はちょっと驚いた顔をした後、俺の様子がおかしいと気付いて顔を心配そうに歪ませた。 「どうしたの、何かマズかった?」 「あ…今、愛してる、って言った?」 「うん、言った。俺は唯人が愛おしくてたまんないよ。」 そう言って目元を緩ませる。 俺を真っ直ぐ見つめる瞳はどこまでも優しくて―…俺は生まれて初めて、人を愛しむ瞳を向けられた。 瞬間、強い力に抱き寄せられて、再び剣吾の腕の中へと戻された。 「どうしたの?俺が泣かせたの?」 「え、俺…」 指摘されて気付く。 声が震えて、頬を熱い何かが伝い落ちてゆく。 あぁ、俺泣いてんのか。 どこか他人事みたいに思えて、少し笑えた。 全く、泣いてるのにも気付かないとか、どんだけ動揺してんだよ。
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