秘密

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とりあえず素直にゴメンナサイしたら、「唯人ん家の大まかな事なら、近所の人達みんな知ってるじゃん。」って言われた。 そう、剣吾ほど詳しくは知らなくても、俺の両親が仕事人間だとか、俺が家政婦に育てられたなんてのはみんな知ってる。 俺の家はここら辺じゃ一番大きい。 それだけでも近所の注目を浴びるのに、実質その家に住んでいるのは幼い頃から俺一人… 俺は昔から、周囲の大人たちの噂の的だった。 『あんな大きな家に、まだ幼稚園にも入っていない子が1人で住んでるの?』 『何でもご両親が忙しくて、家政婦を雇ってるんだとか。』 『まぁ…金持ちの考える事は理解できないわ。』 『いくら仕事ができて裕福でも、子ども一人ろくに育てられないなんて。』 『可哀想にねぇ。』 俺に向けられる視線はいつだって 「憐み」「同情」「妬み」「好奇」なんてのがほとんどで。 『あんな家に住んでても、ろくに愛情も知らないんじゃない?』 『それなら貧しくても愛されて育つ方が幸せよ。』 いつだって大人たちは俺と自身らを比較して、「家族みんなで笑える自分たちの方が幸福なのだ」と優越感や安心感に浸った。 若さに似合わぬ財産を手にし、子どもにすら縛られず自由に生きる俺の両親に抱いた「羨望」や「劣等感」を、俺を可哀想な子どもだと憐れむ事で昇華していたのだ。
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