君の知らない過去

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しばらく無言のまま、隣に並んで帰り道を歩く。待てども唯人から口を開きそうな気配は無い。 (もしかして俺と話すの嫌なのかな…?) そう不安になって唯人の顔をチラリと横目に盗み見ると、俯きながらも薄っすらと嬉しそうに顔を綻ばせている。 どうやら一緒にいる事を嫌には思っていないらしい。 その事に安堵し、ではなぜ口を開かないのかという新たな疑問が生まれた。 「ねえ。」 「なぁに?」 声をかけるとしっかりと返事が返って来る。会話も嫌なわけではないようだ。 「名前、なんていうの?」 「あ。僕、姫川唯人。」 「唯人か。唯人って呼んでいい?」 「うん。…あの、君は?」 呼び捨てを笑顔で快く承諾し、自分の名前を聞き返してくれた事が何故か堪らなく嬉しいと感じた剣吾。 「俺は守山剣吾!よろしくなっ。」 「!!よ、よろしくっ。」 頬を僅かに赤らめて、嬉しそうに答える唯人。 どことなく必死さが伝わってきて、その初々しさの様なものが可愛いらしい。 同級生のはずだが、剣吾には唯人が弟の様な存在に感じられたのだった。
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