君の知らない過去

12/51
前へ
/411ページ
次へ
「剣吾…?」 「…なんで、」 「え?」 「何で、平気な顔してんの?」 「っ!?」 そう呟いて剣吾は俺の腕を引っ張って、勢いよく教室から飛び出した。 何度呼びかけても返事は無くて、半ば引きずられるように走った。 返事は無かったけど、剣吾の名前を呼ぶ度に、俺の腕を掴む手に力が込められたのを今でも覚えている。 やっと立ち止ったのは、施錠された屋上の扉の前。 小さな踊り場に「はっ、はぁ」と二人分の荒い息が響く。 剣吾は肩で息をして、俯いたまま動かない。 俺の腕は掴まれたまま。 ぎゅっと強く握られて少し痛いけど、なぜか離してほしいとは思わなかった。 「………」 「剣吾?」 名前を呼んだ途端、腕を強く引かれて体が傾いた。 「え?」 気付いたら俺は剣吾に抱き締められていて―… 今思えば、あれが初めてだったと思う。剣吾が守るように俺を抱き締めるようになったのは。
/411ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2658人が本棚に入れています
本棚に追加