君の知らない過去

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今なら、そんなのおかしいって分かってる。 依存しすぎてたって、自覚してる。 でも、当時の俺には剣吾だけだった。 剣吾を通して、世界と繋がっていた。 「ごめん、怒ってないから。大丈夫だから…お願い、泣かないで。」 そう言って抱きしめられて、その場に崩れ落ちるほど安心した。 力が抜けて、冷たい床に座り込む。 そんな俺を見て、剣吾は哀しさを滲ませた苦笑いを漏らす。 「唯人ってば子どもみたい…。」 「え、?」 「何にも知らない、小さい子。」 傍から聞けば馬鹿にしてるとも取れる言葉。 だけど、決して悪意の込められた言葉ではなくて。 剣吾はこれでもかってくらい、優しい目で俺を見た。 「大丈夫だよ、唯人。 みんなの言う『普通』も、あったかい家族も、俺が教えてあげる。 俺と毎日いっしょに話そう。 そしたらいつか、人の気持ちも分かるようになるよ。 唯人の気持ちも、みんなに伝えられるようになるよ。」 そう言って微笑んだ剣吾はビックリするほど大人びていて、とても自分と同い年には見えなかった。
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