君の知らない過去

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――――――― ――――― ―――― 〝家に家族が居ない″というのは、俺にとって大きなハンデとなった。 口座に十分な額が振り込まれてくるから、金銭面で困った記憶は無い。 食事や身の回りの世話も家政婦が行ってくれていたから、生きて行く上では問題無かった。 けれど、家族が側にいない。 家政婦の杉下さんというおばさんも、とても事務的な女性だった。 朝来て学校の支度を手伝い、昼間に家事をこなす。 夕方、俺の帰りを迎えて夕食を与え、勉強をみて風呂へ促し、寝るように指示すれば仕事終了。 仕事が終わり次第、彼女は自分の家族の待つ家へと帰ってしまう。 夜の8時になる頃には、 俺はあの広い家にたった一人。 それが俺の『当たり前』で『普通』。 だから誰にも言えはしなかったけれど、本当は暗闇や孤独が怖くて、寂しくて。 ―…早く眠ってしまおう。 夜遅くに放送されるテレビ。 クラスで知らないのは俺だけ。 当然興味もあるし、みんなの話題に入れないのはいつも辛い。 だけど、それでも… ―…誰かが側にいるうちに、眠ってしまいたい。 幼い頃の俺は、何とか杉下さんが帰ってしまう前に布団に潜り込もうと必死だった。 リビングで食器を洗う音を聞きながら、冷たい布団の中で一人、体を丸めて目を閉じた。
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