君の知らない過去

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かなりの勇気を振り絞って言ったワガママ。 声が震えて、恥ずかしさに顔が熱くなる。 一瞬呆けたような顔をした後、へにゃりと情けなく笑った剣吾は、「こんなのでいいのかよ。」って言いながら、優しい手でずっと俺の頭を撫でていた。 「こうされるの好きなの?」 「うん、好き。きもちいー。」 クスッ「そっか。」 目を閉じて手の感触に集中する。 無意識に温かい手にすり寄っていて、「唯人は甘え下手な猫だねー。」と笑われた。 「こんなの、俺が嬉しいだけじゃんか。」 「剣吾も嬉しいの?」 「うん。むしろご褒美ですね。」 「あはは。なにそれ。」 温かくて、穏やかな空気に包まれる。 本当に剣吾の隣は居心地が良すぎて困る。 このとき俺は、剣吾に『自分から甘える』を覚えた。 「まだまだ、序の口だよ。」 「えぇ!?」 甘える、とは案外険しい道のりのものだという事も同時に覚えたのだった。
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