君の知らない過去

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中学校を出て緩やかな坂を下り、剣吾と並んで帰路につく。 道が二本に分かれたところで立ち止り、互いに顔を見合わせて軽く挨拶を交わす。 「じゃあ唯人、俺先に道場行ってるね。」 「うん。後で行くから、練習頑張ってな。」 「ああ。じゃ、また後で。」 片手をひらりと振って道場へ走って行った剣吾とは別の道に進み、俺は剣吾の家のチャイムを鳴らす。 ピーンポーン ガチャッ 「いらっしゃい、唯人。」 「おじゃまします、綾香さん。」 笑顔で迎えてくれた女性は、剣吾の母親の綾香さん。 「さて、今日は何を手伝ってもらおうか。」 そう言ってカラカラと笑う綾香さん。 快活で聡明な彼女は若々しく美人で、とても中学生男児の母親には見えない。 綺麗な黒髪を結いながら、「まずは洗濯ものね!」と俺に見事なウインクを投げてみせた。
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