君の知らない過去

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そんなこんなで、今では家事全般を粗方マスターした。 綾香さんのお手伝いを終え、差し入れを持って道場へ向かう。 すると稽古の終わる良い頃合いに到着し、差し入れを待ち侘びていた門下生に迎え入れられる。 剣吾は「無理してないか?」とよく気にかけてくれていたが、俺はあの時間が好きだった。 俺を「唯人」と呼び、まるで息子のように接してくれる綾香さん。 他愛もない会話をしながら同じ作業を共に行うそれは、まるで俺が幼い頃に体験し損ねた『家族との何気ない日常』のようで。 初めこそ戸惑ったが、今はあの心が温かくなる感じが好きで仕方ない。 ただただ暖かくて、幸せな空間。 きっと綾香さんは、初めから俺にそれを与えようとしてくれてたんだと思う。 剣吾も綾香さんも ほんと、感謝してもしきれない。 だからこそ… 俺は醜い自分が許せなくて、彼らの前から姿を消したんだ。
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