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「私の本名だったな。
私の名は『アリス=ブラッド』と言う。」
「ん?妹と家名が違うのか?」
「ああ。私には記憶が無いからな。20歳と言ったのも妹から聞いた話だ。」
「?
どういうことだ?」
まったくもって意味が分からない。
「あの……お姉ちゃん、私を助けるために、『自らの記憶』を代償とする魔術を使ったんです……。」
「それって確か……『禁術・万殲華』だっけ?」
禁術・万殲華。
自らの全ての記憶と引き換えに、指定する人間以外の命を奪う禁術。
失う記憶の量と質により、奪える命の数も変わってくるという話だ。
「つまりそういうことだ。だから私が初めて見た光景は、血まみれの戦場と泣き叫ぶリシルだったわけだ。」
「歳は記憶を失う前にお姉ちゃんから聞きました。」
「だから推定20歳ってとこか。」
本当に難儀な人生を送っているな。
それに20前に禁術まで覚えるとか……どんな環境だ。
俺も禁術を覚えたのつい最近だぞ。
「だが私が妹に対して想っている愛は真実だ。これは何があろうと覆らない。」
「とんでもないシスコンかよ。」
「帝王様も人のこと言えないよな。」
この帝王は姉が大好きですので。
自分の国で近親婚を認めさせたのも、姉と結婚するためらしい。
「いい加減に素顔みせてよー。」
「ん。そうだな。」
「お前はもっと空気を読め。」
「そいつは無理な相談だ。」
そうこうしているうちに、タナトスがマスクに手をかけた。
彼女の組織入りが、俺に新たな波紋を生んだ。
『俺たち』ではない。あくまで『俺個人』にだ。
ああ。なぜこの女を組織に入れたのだろうか。
「素顔はこんな顔をしている。」
「アニス……?」
その顔は、確かに死んだはずの俺の恋人に瓜二つだった。
顔のパーツ、瞳の色、髪の色。
挙句の果てには、左目の下の泣きぼくろの位置までもが同じだった。
それはまるで、『全く同じ人間のコピー』だった。
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