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「生憎とコーヒー以外出すものが無いのですが、ブラックでも?」
その問いに曽根は首肯で返す
開業後初となる客に熱いコーヒーを出す
「それともアイスコーヒーがいいですかね?」
春は人により寒暑の感覚がばらつくので、4月頃における客に出す茶の温度はなかなか難しい
コーヒーに手を出さないでいた曽根に聞いた
「体中が震えているのでとりあえずホットを出したんですが、ご不満ですかな?」
「…ちゃうんです。この震えは恐怖からなんですわ…」
「何に対する恐怖で?」
「…自分、組の金に手を出してしもうたんです…」
「また随分と命知らずなことを。紫村組と言えば金にうるさいヤクザの中でもさらにうるさい組じゃないですか」
ズズズッと音を立ててコーヒーをすすりながら安い革のソファーに腰掛ける
既に対面に腰掛けていた、震える小鹿というより豚然とした曽根を見ながらまたもう一口すする
「それで、うちに来たのはなんでか…ってまぁ依頼があるからか」
無意味な自問自答
つい以前の職のつもりで話しそうになってしまった
以前の職は依頼だけでなく上からの命令やたらい回しにされた仕事もあって安定しなかったからな
切り替えが出来てないのはいけないな
文字通り命取りだ
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