無題

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思い出 辛いことや悲しいことは時間が少しずつ解決してくれると誰かが言った。 だから、嬉しいことや楽しいことも時間が経つに連れて少しずつ薄れていくんだ。 記憶の中には忘れたくない大事なものが幾つもある。 それとともに、不格好で帳消しにして破り捨てたいものも幾つもあるんだ。 手に入れて、壊して。 無くして、探した。 だから、時に記憶を辿って、思い出してみる。 忘れたくないことと忘れたいことを。 砂浜に描いた私と君の名前。 誰かに笑われる気がして、廊下を通れなかった。 手を繋いで歩いた坂道。 嫉妬して虚しくなって、吐き捨てた言葉にあの子は泣いた。 幼い頃見た故郷の夜空が大阪にもあった。 火葬場の高い煙突から昇る煙に死を認めることが出来なかった。 橋の下からあの子と見た雪が深海のスノーホワイトみたいに見えた。 生きることと死ぬことが分からなくなって、怖くてたまらなくなったあの夜。 君の寝顔。 嫌いな級友の声。 音程がずれたピアノ。 壊したギター。 池袋 白川郷 故郷の川 都会の光 半分まで埋め尽くしたノート。 叶った夢、叶わなかった夢。 大嫌いだ。大好きだ。 消えてしまえ。 消えないでくれ。 醜き、美しき、 淡く、濃く、 哀しく、愛しく、 両手にすっぽりと収まる 大きくて小さな 私の思い出よ。 ありがとう。 ありがとう。 大嫌いだ。大好きだ。
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