Ⅰ.noise《騒乱》

2/19
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
【2009年1月上旬 日本・スポーツジムEB】 「シッ・・・」 短く息を吐き出すと共に突き出した右拳が、サンドバッグに突き刺さると、悶絶するかのようにサンドバッグが揺れた。 間髪入れずに今度は、左の掌底突きを放った後、右の上段蹴りでサンドバッグを蹴り飛ばす。 打撃のコンビネーションを変えつつ、数回それを繰り返した後、ようやくサンドバッグの揺れが収まる事となった。 「ふうッ・・・」 呼吸を整えつつ、うっすらと身体に滲む汗を拭う麻理亜の表情は、鋭く攻撃的な打撃とはかけ離れた穏やかさに包まれている。 「おー。今日も気合い入ってるね麻理亜ちゃん」 にこやかな表情で麻理亜へ声をかけた若い男は、伸司と言う名で、いつの間にか互いに言葉を交わす間柄になっていた。 「私はいつも通りなんだけどね」 「そのいつも通りがハンパないからさー。 何かの格闘技とかやってるの?」 オープンフィンガーグローブを嵌めながら、何となくといった感じで伸司が麻理亜へ尋ねた。 「子供の頃に合気道とか空手とかを少し習った位で・・・ あとは我流って感じかな」 ふっと笑みを浮かべ、伸司へ答える麻理亜の言葉に嘘は無いが、それが全てという訳でも無かった。 麻理亜が体得している格闘技は軍隊格闘技であり、戦闘状況下でいち早く敵を無力化する為の手段であり、生き延びる為の手段でしか無い。 反則やルールという概念が無い、なんでもありの戦闘術を格闘技と呼べるのか麻理亜には解らない。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!