0.overture《序曲》

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【数ヶ月前・オランダ】 ゆらゆらと揺らめきながら、薄青色の空へ吸い込まれていくのは緑色の風船。 柔らかな光を浴び天高く昇っていく姿は、地上をさ迷う定めから解き放たれ、天へと還る魂を思わせる。 昼下がりの街に乾いた風が吹き抜ける。 風は街を見下ろす麻理亜の髪を微かに揺らし、辺りに漂う硝煙の匂いを吹き清めて行く。 「・・・・・・」 街を見下ろすホテルの屋上に麻理亜は彫像のように立ち尽くし、その瞳は光を失った虚無の色に染まっていた。 眼下の街から悲鳴と怒号が巻き起こり、その狂騒は麻理亜が居る場所へと届いてくる。 現在地より700メートル前方。 首から上がふっ飛ばされた死体が石畳の路上へ行臥しており、血の海の中に、一人の女性が死体に寄り添うように倒れ臥していた。 唐突に起こった非日常的な凶事。 その凶事を起こした張本人は麻理亜自身であり。 死体の頭をふっ飛ばした物は、徹甲弾をチョイスした対物ライフル・バレットM82A1である。
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