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悲痛な表情でニュースキャスターはこの事件を締め括ったが、次のニュースでは明るい表情を浮かべていた。
「ふうッ・・・」
麻理亜も気持ちを切り替えるように、テーブルの上に置いているマグカップを見つめた。
青みがかった白地に薄桃色の桜の花弁が描かれていた。
なんとなく気に入ったこのマグカップは、美月と行った雑貨屋で買った物である。
あの事件後。
美月が落ち着きを取り戻すのに、そう長い時間は懸からなかった。
それは、騒然としていた爆発現場を早目に立ち去った事も大きいだろう。
《ちょっとビックリしたけど。
もう大丈夫だよ》
早目に元気を取り戻した美月に促されるまま、買い物や街ブラを楽しんだ。
その途中、喫茶店でお茶を飲みながら麻理亜は、かつて自分が傭兵として戦場へ居た事を美月へ告げた。
それを聞かされた美月は、最初は多少驚いていたが、後は特に気にした様子も無かった。
《だから、あんな爆発があっても麻理亜ちゃんは冷静でいれたんだね。
私には、戦争の事とかよく解らないし、想像も出来ない位に大変な事なんだろうと思う。
でもね・・・上手く言えないけど。
そんな過去があったとしても、それでも、麻理亜ちゃんは麻理亜ちゃんだと思うよ》
そう言ってくれた美月の優しさが、胸にじわりと染み込むようだった。
「美月ちゃん、ありがとう」
桜のマグカップを見つめながら、胸の中で美月への感謝の言葉を述べた後、麻理亜は買ったばかりの桜のマグカップで紅茶を飲む準備を始めた。
優し気な表情の麻理亜と同じく、穏やかに夜は更けて行くのであった。
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