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【翌日】
平泉勝男は憂鬱な気分だった。
愛車のハンドルを握っても、その気分が容易に晴れるものでも無い。
ルームミラーに映るのは疲れた初老の男であり、出掛けに妻が心配そうな表情を浮かべていたのも頷ける。
それには理由がある。
ここ数日の間に、ビジネスパートナーが二人も死んだのである。
技芸舎の常務である浅見は、無惨な首無し死体と変わり果て。
西森ビジネスサポートの専務である出舞は、脳梗塞で死んだというが偶然にしては出来すぎている。
亡くなった二人と平泉の接点は、新成テクノパークという共通項があり、三人の横の繋がりが強かったという事である。
この悲惨な状況の裏に一人の男の顔がちらつくが、それをおおっぴらに話せない事が、自分をここまで憂鬱にしているのであり。
それを話す事が出来た二人を喪ったという事なのである。
《私はね。
何も強制的に頂こうとは思ってません。
この件を了承して頂ければ、それ相応の対価はお支払いします。
ただ、時間が無いので早急にイエスの返事を頂きたいのです》
まだ二人が生きていた頃。
自分を含めた三人で青井海男と名乗る男と会った時に、淡々とした口調で告げられた提案という名の宣告だった。
その宣告に、ノーを突き付けた浅見と出舞が殺されたと考えて間違いないだろう。
更に青井はご丁寧な事に、昨夜自分に連絡してきて、三日後迄に最後の答えを聞かせてくれと吐かしたのである。
自分が誰にも相談を出来ない事を見越したうえである。
「断れば・・・死。
かといって警察には話せ無い・・・
全く、オーロラは呪われているとでもいうのか?」
暗然とした気持ちを抱えたまま平泉は、出舞の告別式が行われる葬儀場へと愛車を走らせた。
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