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「一体奴は何者だってんだ?」
痛みで脂汗を浮かべながらも、一部始終を食い入る様に見つめていたリチャードが口を開いた。
「解らない・・・
撃たれても痛みを感じ無いみたいだったけど。
さっきのアフリカ人達みたいな、薬の酩酊のせいだとは思えないわ。
それにしちゃ攻撃が的確過ぎたし・・・」
ナイフの血を拭いながら、麻里亜はリチャードの側へ近付く。
「そんな事より・・・大丈夫?」
そう尋ねる麻里亜へリチャードは、無理矢理笑みを浮かべ頷いた。
「俺は大丈夫だ。
弾も貫通してるみたいだしな。
お前が居なかったら・・・俺は殺られてた。
ありがとうな」
「私も一歩間違えば殺られてたかも知れないわ・・・」
驚異的な戦闘力で相対した東洋人が一体何者なのかという疑問を抱きながら、麻里亜は戦闘服の袖を引き千切りリチャードの止血を始めた。
生臭い血の匂いと、無数の死体が床に転がる建物内と同様に、麻里亜とリチャードの姿もまた凄惨な物であった。
そして・・・
周囲の空間の輪郭が歪み始め、生臭い血の匂いも無臭となり、ただ生々しい感覚だけを残しながら、麻里亜の意識は現実へと戻り始めて行った。
「・・・夢か・・・」
過去の夢から覚めた麻里亜は、ふとベッドサイドの時計に目をやった。
《AM 04:45》
青い闇にアナログ針の蛍光塗料が、ぼんやりと光を灯している。
直前まで見ていた夢は。
一切何の脚色も無い自分の過去の情景であり、東洋人の咽頭部へナイフを突き刺したのもまた現実である。
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