23人が本棚に入れています
本棚に追加
「部長が定時に帰るなんて、珍しくないですか?」
「断れない用事が入って」
「え、じゃあご飯食べに行ってる場合じゃないじゃないですか!」
あたしには縁のなさそうな高級車の助手席で、勢いよく運転する部長に向き直る。
…と、予想もしない反応が舞い降りて、思わずあたしは息をのんだ。
「だから渡辺が必要なんだよ」
部長は、視線を前に向けたまま。
宥めるような優しい仕草で、あたしの頭に手を置いていた。
恋人にされるような、そのあまりにも優しいそれに、不意にあたしは…。
…順を、思い出してしまった。
わがままばかり言うあたしを、順はよく、そうして宥めてくれていた。
あたしはそれが、大好きだった。
最初のコメントを投稿しよう!