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  「部長が定時に帰るなんて、珍しくないですか?」 「断れない用事が入って」 「え、じゃあご飯食べに行ってる場合じゃないじゃないですか!」 あたしには縁のなさそうな高級車の助手席で、勢いよく運転する部長に向き直る。 …と、予想もしない反応が舞い降りて、思わずあたしは息をのんだ。 「だから渡辺が必要なんだよ」 部長は、視線を前に向けたまま。 宥めるような優しい仕草で、あたしの頭に手を置いていた。 恋人にされるような、そのあまりにも優しいそれに、不意にあたしは…。 …順を、思い出してしまった。 わがままばかり言うあたしを、順はよく、そうして宥めてくれていた。 あたしはそれが、大好きだった。  
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