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「あの!ちゃんと、あとで返しますから!」
再び車に乗り込み、あたしは慌てて部長に話しかける。
エンジンをかけて高級車を走り出した部長は、笑いを噛み殺しながら返事する。
「あんたの給料、何か月分かな」
あたしの人生に縁がないような高級店で、ドレス一式揃えれば、そりゃあかなりの額が想像はできるけど。
…細かい数字まではとてもじゃないけど、想像できない。
せめてもの救いは、新着したばかりのコートが、ドレスにも合いそうなコートだったってこと。
パーカーなんて、着てきてたら…。
怖い想像をして、鳥肌がたつのを感じていると、隣から優しい声が耳に届く。
「俺がそうしたいんだから。あんたになんて、出させるわけないだろ」
さっきと同じようにあたしの頭に手をのせて、優しい笑みを浮かべる部長は。
あまりにも、会社にいるときとは違いすぎて。
イケメン好きのあたしには、鼻血を出しても仕方ないといわれてるみたいだ。
「──俺。これから行くから」
自分に起きている事態を飲み込めずにいると、短い会話を終えた部長が、携帯をスーツの内側にしまうのが見えた。
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