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「はじめまして」
母の顔を凝視するあたしの頭の上から、優しい男のひとの声がした。
近所のお爺さんほどしゃがれてなくて、担任の先生よりも少し高くて細い声。
「ほら、挨拶して」
母に促され形だけ頭を下げた。
視界に入る革靴はこの日のために買ったのか磨いたのか知らないが、ピカピカと輝いている。
「恵美さんから話は聞いているよ。ずっと会いたかったんだ」
恵美とは、母親の名前だ。
母のことを名前で呼ぶ程親しくて、あたしに会いたかったこの男。
間違いない。
母が付き合っている人だ。
夕食の会話でその名を耳にしてたから、もちろん存在は知っている。
だけど、会いたくなかった。
母には何度か会うように言われたけど、いつも無理やり話を逸らしてきた。
それが今、目の前にいる。
最高に気分が悪い。
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