171人が本棚に入れています
本棚に追加
あたしは下げていた頭をゆっくり元に戻すと、上目遣いに男の顔を見た。
グレーのスーツにストライプのシャツ。
爽やかな笑顔。
目尻には優しそうなシワが深く刻まれている。
ムカつくけど、母と並んで歩いても恥ずかしくない容姿だった。
「チッ」
露骨に舌打ちをした。
何も言わずに連れてきた母に腹が立つし、何より目の前で笑うこの男が嫌でたまらない。
男は顔色ひとつ変えずニコニコしたまま、今度はソファーに向かって手をあげた。
コツコツと革靴の足音が聞こえる。
まだ誰かいるの?
あたしは身構えた。
目の前に立っていたのは、ストライプのスーツに薄ピンク色のシャツを着て、ネクタイを締めた若い男だった。
整形したような鼻や小さな顔。
黒目がちな大きな瞳。
優しく微笑むと歯並びの良い白い歯をのぞかせた。
「はじめまして。息子の高須瞬(たかすしゅん)です」
一瞬見惚れてしまったけど、あの男の息子だと思い直し、ふてくされたように答えた。
「矢吹萌香(やぶきもか)です」
「コーヒーみたいな名前だね」
そう言って彼は眩しいほどの笑顔を見せた。
最初のコメントを投稿しよう!