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あたしにはお父さんがいない。
それなのにお母さんまでいなくなったら、どうやって生きていけばいいの?
あたしはひとりぼっちになっちゃうの?
握りしめた左手の拳に、頬を伝う雫がぽたりと落ちた。
「萌香……」
母が焦ったようにハンカチを差し出す。
涙で視界が歪み、花柄のハンカチが不思議な柄に見えた。
涙は拭っても拭ってもとめどなく溢れてきて、ハンカチを濡らす。
「俺は、萌香ちゃんの気持ちわかりますよ」
落ち着いた声が心地よく鼓膜に響いた。
「彼女はまだ中学生ですよ。今のこの状況に戸惑うのは当たり前じゃないですか?」
「瞬くん……」
母の動きが止まる。
「自分の大好きな母親が知らない男に奪われるかもしれない。誰だって不安になりますよ。もっと彼女の気持ちになってあげなきゃいけないと思います。それに、今日のこと、ちゃんと話しました?何も告げずに連れて来られたら誰だって納得できませんよ。ちゃんと話して、理解したうえで連れて来るべきだったんじゃないですか?」
彼の発言に、誰も何も言い返すことが出来なかった。
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