海の青、空の青-side 萌香-

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瞬くんを“お兄ちゃん”と呼ぶと、母はとても喜んだ。 いくら戸籍の上で“兄”になったといっても、あたしにとって“瞬くん”は“瞬くん”でしかない。 だから本当は瞬くんと呼びたかったけど、母があまりにも笑顔を見せるから、それなら仕方ないと彼を“お兄ちゃん”と呼ぶようにした。 だけど、修二さんを“お父さん”と呼ぶことが出来なかった。 父親として認めていないとかそんな理由じゃない。 でも、本物の父親はこの世界のどこかで生きている。 修二さんをお父さんと呼んでしまうと、本物の父親の存在を否定しているような気がした。 だから修二さんのことは“修ちゃん”と呼ぶことにした。 呼びやすいし、あたしはとても気に入っている。 中学3年の終わりであるこの時期に結婚したのには、大きな理由があった。 あたしは名字が変わる。 矢吹から高須になるのだ。 入学する予定の高校には、同じ中学の生徒が誰もいない。 これは寂しいことだけど、ちょうど良いとも言える。 名字が変わった説明をいちいちしなくて済むのだ。 この時期の結婚を提案したのは瞬くんだった。 「萌香のことを考えて、今が一番良いタイミングじゃないかな」 そう切り出した。 実際、修ちゃんも母も早く家族になりたいと願っていた。 けれど、そのタイミングを掴めないでいた。
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