海の青、空の青-side 萌香-

6/8
前へ
/120ページ
次へ
「汚れるよ」 瞬くんは隣でそう言ったけど、あたしは砂浜に爪をたて、白い砂を山のように盛った。 「……お城を作るの」 真新しい淡いピンクのワンピースが汚れることも気にせず、立て膝をついて砂と遊ぶ。 砂は深く掘れば掘るほど冷たく、爪先がジンジンと痛みはじめる。 「小さい頃、お母さんと一緒によく海に行ったの。それでね、毎回必ず砂でお城を作ったんだ」 白い砂の城はあたしと母の小さな思い出。 2人で築いたささやかな城。 2人で守った……小さな幸せという名の、城。 「あたしたち、ずっと2人で生きてきたの。お母さんと、2人で……」 潮風が目に染みるのか、視界がゆっくりとぼやけはじめた。 「萌香?」 おかしいな。 なんだろう。 頬を伝う温かいもの。 あたし、泣いてるんだ。 でもどうして? 自分で自分の涙に戸惑い、言葉をなくしてしまった。 その時、 背後に人の気配を感じた。 ゆっくりと伸びた腕が、あたしの体を優しく包む。 「大丈夫。不安になることなんてないよ。2人はずっと親子なんだよ。それはこの先も変わらない。これからは新しく4人で思い出を作って、新しい家族になろう。 新しい家族は、萌香は、俺が必ず守るから」 ぶかぶかのスーツは瞬くんのもので、瞬くんの首を包むのはあたしのストールで。 後ろからあたしを抱き締めているのも “守る”と言ってくれたのも 瞬くんだった。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

171人が本棚に入れています
本棚に追加