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「汚れるよ」
瞬くんは隣でそう言ったけど、あたしは砂浜に爪をたて、白い砂を山のように盛った。
「……お城を作るの」
真新しい淡いピンクのワンピースが汚れることも気にせず、立て膝をついて砂と遊ぶ。
砂は深く掘れば掘るほど冷たく、爪先がジンジンと痛みはじめる。
「小さい頃、お母さんと一緒によく海に行ったの。それでね、毎回必ず砂でお城を作ったんだ」
白い砂の城はあたしと母の小さな思い出。
2人で築いたささやかな城。
2人で守った……小さな幸せという名の、城。
「あたしたち、ずっと2人で生きてきたの。お母さんと、2人で……」
潮風が目に染みるのか、視界がゆっくりとぼやけはじめた。
「萌香?」
おかしいな。
なんだろう。
頬を伝う温かいもの。
あたし、泣いてるんだ。
でもどうして?
自分で自分の涙に戸惑い、言葉をなくしてしまった。
その時、
背後に人の気配を感じた。
ゆっくりと伸びた腕が、あたしの体を優しく包む。
「大丈夫。不安になることなんてないよ。2人はずっと親子なんだよ。それはこの先も変わらない。これからは新しく4人で思い出を作って、新しい家族になろう。
新しい家族は、萌香は、俺が必ず守るから」
ぶかぶかのスーツは瞬くんのもので、瞬くんの首を包むのはあたしのストールで。
後ろからあたしを抱き締めているのも
“守る”と言ってくれたのも
瞬くんだった。
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