海の青、空の青-side 萌香-

7/8
前へ
/120ページ
次へ
誰かにこんな風に抱き締められたこと、あったかな。 トクントクン。 聞こえる。瞬くんの音。 母の再婚を嬉しいと思う反面、不安がないわけではない。 家族になるということは、一緒に暮らすということだ。 修ちゃんに迷惑かけないようにしなくちゃ。 よい子でいなきゃ。 日に日に強くなるこの思い。 プレッシャーにおしつぶされそうになっていた。 母と変わらずに仲良くできるのか。 あたしは、母と修ちゃんにとって邪魔者じゃないか。 母との関係が崩れていってしまうのではないか。 考え過ぎて眠れない日もあった。 けれど今、背中に感じる瞬くんの温かさと優しい言葉で、たったそれだけで“大丈夫”だと思えた。 不思議。 瞬くんは魔法が使えるみたい。 「俺、萌香の髪好きだな。ふわふわしてて、柔らかくて」 「お兄ちゃん……」 瞬くんの細くて長い指が、あたしの髪に触れる。 胸の奥が締め付けられるような、経験のない痛みを感じて戸惑ってしまう。 「父さんたちが待ってる。帰ろうか」 回した腕をほどき、何もなかったような自然な顔で歩きだした瞬くん。 赤くなった顔がバレないように、うつむきながら彼のワイシャツの裾を掴んで歩いた。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

171人が本棚に入れています
本棚に追加