171人が本棚に入れています
本棚に追加
誰かにこんな風に抱き締められたこと、あったかな。
トクントクン。
聞こえる。瞬くんの音。
母の再婚を嬉しいと思う反面、不安がないわけではない。
家族になるということは、一緒に暮らすということだ。
修ちゃんに迷惑かけないようにしなくちゃ。
よい子でいなきゃ。
日に日に強くなるこの思い。
プレッシャーにおしつぶされそうになっていた。
母と変わらずに仲良くできるのか。
あたしは、母と修ちゃんにとって邪魔者じゃないか。
母との関係が崩れていってしまうのではないか。
考え過ぎて眠れない日もあった。
けれど今、背中に感じる瞬くんの温かさと優しい言葉で、たったそれだけで“大丈夫”だと思えた。
不思議。
瞬くんは魔法が使えるみたい。
「俺、萌香の髪好きだな。ふわふわしてて、柔らかくて」
「お兄ちゃん……」
瞬くんの細くて長い指が、あたしの髪に触れる。
胸の奥が締め付けられるような、経験のない痛みを感じて戸惑ってしまう。
「父さんたちが待ってる。帰ろうか」
回した腕をほどき、何もなかったような自然な顔で歩きだした瞬くん。
赤くなった顔がバレないように、うつむきながら彼のワイシャツの裾を掴んで歩いた。
最初のコメントを投稿しよう!