プロローグ

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そんな理由から、佐藤さんが15分早く来たことに若干焦りを感じている。 あたしはヘアメイクの真っ只中で、今すぐ席に着くことが出来ない。 佐藤さん、きっとイライラしているんだろうな。 ゆっくり支度したかったのに。 溜め息をつきポーチからベージュの口紅を取り出すと、唇の赤みを消しグロスをたっぷりつけた。 「最近指名増えてるね」 少量の髪をカーラーに巻き付けながら、ヘアメイクさんが感心したように言った。 彼女もまた佐藤さんと同じくらい糸目だ。 「たまたまですよ」 軽く受け流した。 夜の仕事関係の人間は信用できない。 いつどこで何を言われるかわかったもんじゃない。 極力自分を見せないように心掛けることが一番大切だ。 「マリアちゃん学生でしょ?学校行きながら頑張っているなんて偉いよね」 「……ありがとうございます」 “学生”であることを彼女に話した覚えはなかった。 何でも筒抜けの業界だと、嫌でも痛感する瞬間だ。
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