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右を向けば海、左を見れば山、そんな自然に囲まれた田舎に私は生まれた。
長身で美人の母親と二人暮らし。
父親は、はじめからいなかった。
祖母や祖父は私が生まれる数年前に亡くなっていて、写真でしか見たことがない。
何故自分にだけ父親がいないのかと母を問いただしたこともあったけれど、いつか必ず話すからとはぐらかされ、それ以降話題に出すのをやめた。
母が父について話してくれたのは小学6年生のとき。
交際していた男性との間に子どもが出来た。
だけどそれを彼に告げず、ひとりで育てる選択をした。
母は「最初から結婚する気がなかったのよ」と笑いながら言ったけれど、本当は“結婚出来ない相手”だったからではないかと思った。
もちろん、そんなこと訊けなかった。
私は母親であり、父親の役割も果たす母を尊敬していたし、とても愛していた。
見た目も他の母親たちに比べて綺麗だ。
少なくとも私の目に映る母は、いつだって誰より美しかった。
二人きりの家族。
穏やかで温かい家族。
そんな普通で幸せな生活がずっとずっと続くと思っていたある日、ヒラヒラしたピンク色の可愛らしいワンピースを着せられた。
この時私は中学2年生で、少しばかり反抗期だった。
ピンクじゃなくて白が良かったなんて、ぶつぶつ文句を口
にしていたことを覚えている。
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