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母に言われるまま助手席に座り、シートベルトを締めた。
どこに行くか知らされていないけれど、ハンドルを握る母の横顔が真剣で、このまま離れ離れになってしまうんじゃないかなんて心配したくらいだ。
不安なまま連れてこられたのは、大きなホテルだった。
ホテルには見覚えがあった。
数年前に知り合いの結婚式に参加したとき、一度訪れたことがある。
今日も結婚式なのかな?
でも、結婚式なら前もって教えられる。
こんな風に何があるのか隠されて連れて来られる訳がない。
何もわからないままロビーに向かうと、母が真っ白な歯を見せて誰かに微笑んだ。
少しはにかみ、照れたように笑う。
あたしは視線を移せなかった。
こんな顔をした母を、見たことがない。
あたしには見せない女の顔なんだと、この時はっきりとした。
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