13、死を求める

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「頑張ってください。大丈夫ですよ」 エルティアンにあるキリアス教の中継基地病院には次から次に患者が運ばれてくる。 エルティアンはアイラン皇国と接する小さな小国である。 10年ほど前までイギリスの占領下にあったために、この地域では珍しくヨーロッパ様式が多くある。 ここに運ばれてくる患者はアイラン皇国から退却してきた兵士が殆どであり、最前線の野戦病院で応急処置だけが済まされてこの病院に搬送される。 痛みと苦痛に堪える兵士の手を握るのはシャルロットである。 自分からできることはないかと探し、行動する。 しかし、シャルロットは王女であり氷帝である纓二の妻という地位から、兵士が畏まってしまっていた。 「何か欲しいものがあればいってください」 「そんな、あの、シャルロット様に頼めるはずがありません」 「いいのです。今の私を王女とは思わず、手伝いにきている町娘とでも思ってください。何でも言ってください。私にできる事なら何でもします」 「で、では、、水をお願いします」 「はい、直ぐに」 笑みを浮かべたシャルロットはその場を離れた。 「シャルロット様がこんなところにおられるなんて思いもしなかったな」 「俺なんて手を握って貰ったぞ。柔らかくて暖かくて、体の痛みが消えたぞ」 「私、シャルロット様とお友達になれたんだから! 今度氷帝様にも会わせてくれるって言ってた」 「はぁ! なにそれ、ずるくない!私も言ってみようかな」 「本当に天使みたいなお人だな。あの笑顔を目の前で見れただけで、この世に未練はないよ」 怪我人の中はシャルロットの話題で持ちきりだった。 シャルロットが来るまで殺伐としてピリピリとした雰囲気であったが、それは緩和されている。 「でも、風帝様たち大丈夫でしょうかね」 「ルドワーンに侵攻したときに悪魔の待ち伏せを受けたって言ってたけど」 「風帝様や双位様がいるんだ負けやしないさ」 「そうだな」 そこになって手に水の入ったコップを持ったシャルロットが戻ってきた。 「お待たせしました」 「ありがとうございます」 シャルロットが渡した水をしばらく凝視した兵士はそれを一気に飲みきった。 ーーーーーーーーーー
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