1 兆候

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もともとは母がこういった洋館に住みたいと言って、この家を購入したのだ。 代々資産家の家に生まれた父には、こんな買い物どってことなかったようだ。 この不景気にごくろうなことである。 この屋敷は目を見張るほど立派だが、立地は田舎。コンビニも何もない。知り合いもいない。隣の家は、ご近所と言えるほど近くにはなかった。 ここに来てもう一年近くになるが、周平はいまだにここの生活に慣れずにいた。 ただ、知り合いがいないのは、いつでも浮いている周平にとっては好都合だったが。 調理場の脇にある部屋が、使用人室だった。 咳をしながら歩みを進める。 ドアにはめこまれたすりガラスからは明るい室内が見え、中から2,3人の女性の話し声が聞こえてくる。 大きすぎる屋敷を管理するために、この家ではハウスキーパーを雇っている。 ハウスキーパーと言っても、この近隣に住んでいるパートのおばちゃんたちだ。
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