1 兆候

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再びあの暗く地味な部屋に戻って来た。 周平は、ドアを閉めたあと、その場に立ち尽くす。 『……もしかして、裏口入学?』 前にも学校で同じような陰口を聞いたことがある。 たしかに高校に入ってから成績はかなり落ちた。 しかし、高校受験の時に必死になって猛勉強したことを陰口をたたく人たちは知らない。 誤解されるのもバカにされるのも、この妬まれやすい境遇ではよくあることだった。あまり気にしていない。自分が正しいことをやっていればいいのだ。 それに、そんな不正がまかり通るほど世の中腐っていはいないはずだ。 腐ってはいない、と思いたい。 周平は、ベッドに置いてあったバッグを引っ掴んでデスクに向かった。 学ランを脱いで椅子の背もたれに掛け、座る。 咳が出る口を手で押さえながら教科書、ノートを広げる。 目に飛び込んでくる文字の羅列にいつもながら嫌気がさしてくる。 自分はもともと勉強なんて向いていないんだろうとつくづく思う。
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