1 兆候

13/15
前へ
/120ページ
次へ
テキトーに入れた、今はやりの曲が大音量で流れてくる。 これで集中できる、と周平はデスクにむかい勉強をはじめた。 ______ あたりがすっかり真っ暗になるころ、広いダイニングルームには夕食の準備がされていた。 長いテーブルには何脚もの椅子が並べられているが、食事が用意されているのは、そのテーブルの端の二,三席だ。頭上にはシャンデリア。 準備が終わったのを見計らって、周平はいつも自分が座る席についた。 そして黙って目の前の食事を食べ始めた。 「こら、一人だけ先に食べないの」 背後から女性の声がする。 しかし、周平は黙々と食べ続ける。 「……全くこの子は」 言いながら、女性は周平の向かいの席に着いた。 周平の母である。 短かめの髪に上品なパーマを当て、上等なブラウスと淡い色のタイトスカートを身に着けている。化粧はばっちり、耳にはブランドもののアクセサリーが揺れている。 母のため息をしり目に、周平は食事を続けるも、ふいに咳が出た。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加