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しかし、どうもそれはハウゼンの神経をすこーしばかり逆撫でし過ぎてしまったらしく……ハウゼンが笑顔の裏で怒っていることは容易に想像ができた。
「そういえば……さっきは馬より長く速く走れると、言っていたな?」
「え? あー……まあ、駄馬くらいなら」
軽く訂正をしようとしたネイムだが、ハウゼンは笑顔を崩して真剣な眼差しでネイムに問う。
「言、っ、て、い、た、な?」
「…………はい。言いました」
「そうか……では、ネイム・レス
お前だけ次の宿に到着するまで走っていて良いぞ。
魔力のないお前には、良い訓練になるだろう」
「………………」
「よし、他の三人は馬車に乗っていろ」
「…………ふっ」
「流石にアレは言い過ぎだと思うわよ?」
「が、頑張ってね?」
絶句するネイムを、他の三人は憐れむ目を向けて馬車に戻っていくのであった。
流石のネイムも、宿に着くまで走り続けるのは……
「よーし! 少し予定より遅れている!
ペースを上げて進軍するぞっ!!」
ハウゼンがそんなことを言って馬を走らせた。
明らかに今までの速度よりも速い。
それについて行くように、他の近衛の馬も、馬車を引く馬たちも疾走していく。
「頑張ってねー」
「遅れるなよ」
「……ガンバ」
近衛の三人からそう声を掛けられ、そしてその場にネイムはポツンと残される。
「ネイムー、サクラちゃんいるんだから、遅れちゃ駄目よー!」
馬車からエリーが顔を出してそんなことを伝え、その姿がどんどん小さくなっていくのを見てネイムは本気で焦り出す。
「え……ちょ…………おーーーい!
マジでその速度で走り続けるのかよーーーー!!?」
ネイムは悲鳴にも似た絶叫をしながら、すぐに馬で走る一団を追いかけていくのであった。
ちなみに、馬車は一度たりとも止まることなく、夕刻の宿に着くまでネイムは荒野を走り続けることになったのであった。
――今度から上官を必要以上に煽るのは止めよう。
ネイムは自分の肝にそう銘じたのであった。
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