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ネイム・レス
その名前は今、一部の貴族と騎士の間で話題に上っていた。
「……どう思う、クルト?」
「どう、とは?」
総騎士団長ガウスが、大臣のクルト・N・ビーマンに一枚の紙を渡して見せていた。
その紙にはクルトの娘メイリンの記憶の映像を魔法で焼きうつした物だ。
そこに映る少年の姿に、クルトとガウスは見覚えがあった。
「陛下に、似てると思うだろ」
「確かに……そうだな。陛下の生き写しのようだ。だが……しかし……」
「娘に問いただしたら、どうも俺に隠れてネイム・レスと接触をしていたらしい。モリアの差し金としか思えねェんだが……」
アルカ・N・ウィゴット
それがガウスの娘であり、近衛騎士の一人だ。
「……モリア、か」
この国の宰相の名を口にして、クルトは両手を組んで事態を整理しようと頭を働かせる。
「奴が現れてから、急にあの悪ガキだった陛下が人が変わったように勉学に励み……そして魔術の腕を五つで国一番にまでなった。
悪い事ではないが……妙だとは思わないか?」
「…………気になるのか?」
「気にならない訳が無いだろ」
「…………わかった。
私が……彼に――このネイム・レスに会って探りを入れてみよう」
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