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風節・乱風の月
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騎士養成学校の敷地内
四方が壁に囲まれていて、その一角で長物の武器を振るう少年がいた。
「ふっ! ぜりゃ!」
ネイム・レス
魔力を持たずにこの魔力実力主義の国で騎士団入りを目指す少年だ。
一月前の【風節・立風の月】に起きたビーマン大臣のご息女誘拐事件は彼の手によって解決されたのだが、その事実を知る者はほんの一握りに留まっている。
「ネイムー」
「ふんっ! …………ん?」
名を呼ばれ、ネイムは長物の素振りを止めた。
そして軽く腰に巻いていたタオルで汗を拭きながら声のした方に顔を向けた。
「マリアか。何か用か?」
「今日から本格的な魔法訓練が行われるから、ダラス教官から何か発表があるらしいけど、どうするのよ?」
マリア・リーネル
ネイムと同じチームになった同級生だ。
【ダラス】の名前が出た瞬間にネイムはなんとも微妙な表情をしたが「そうか」と言って長物を壁に立てかけた。
「俺も行こう。情報はあるに越したことはないからな」
「あっそ。じゃあ先に行くわね。
――クイック・エア」
ネイムの返事を聞くと、マリアは瞬時に魔法を発動させてその場から去ってしまった。
一月前からこの学校では封印具を用いての訓練がずっと行われてきて、今日になってようやくそれが終わったのだ。
「魔法制限なしで使えることが嬉しいからって……普通置いてくかよ」
高速で去っていくマリアの背中をネイムは自前の脚力で追い駆けながらそう呟くのであった。
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