出張&護衛

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アル爺はエリーに微笑みかける。 「老い先短い爺の道楽じゃ。 好きにさせてくれ」 「…………」 エリーはその言葉に何も言えなくなってしまう。 「……なんか事情があるみたいだけど……この手綱、買わせてもらうぜ。 そんで、そうだな……五――いや、三年だ! 三年後に俺はアルギムで名を轟かす竜騎士になる! そしたらアル爺が腰抜かすほどの大金持ってここに来てやるよ!」 そう宣言したネイムのことをアル爺は気持ちよく笑う。 「ほぅ、言いよるなネイム? では、しぶとく三年は生きてやるかの」 「おう!」 ――ゴーン、ゴーン! その時、日が沈むことを告げる鐘が街中に響き渡った。 「あ、やべ……!」 もう集合時間が来て、ネイムはハッと我に帰った。 「なんじゃ、もう行くのか?」 「ああ。一応これから任務あるんだ。 アル爺、手綱の金は必ず払いに来るから三年後もここにいろよ。 ほら、サクラも礼言え」 「ピィー」 「がはは、リンドブルムに頭下げられる日が来るとは思わんかったな」 ネイムはサクラを頭の上に乗せ直し、そしてエリーの方に向き直った。 「エリー、ここ紹介してくれてありがとな。 おかげでスゲー良いモン買えたよ」 笑顔のネイムに対して、エリーの表情は少しだけ暗かった。 「……うん。必ずアル爺にお金払いなさいよ?」 「もちろん。 それじゃあな!」 「ピィ~!」 元気よくネイムはその場から走り去っていく。 その場にはアル爺とエリーだけが残され、沈黙が流れる。 「…………おじいちゃん、本当にいいの?」 「嬢ちゃんは気にしなくてもいいんじゃよ。 それにな……ネイムの目……【アイツ】と同じ目をしておった。 アイツの夢をネイムが叶えてくれるのなら、これほど嬉しい事は無い。 ……ほれ、嬢ちゃんも、そろそろ戻らんといかんぞ?」 「……うん」 エリーはアル爺に軽く手を振り、その場から去っていくのであった。
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