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「ふぅ……まさか、この歳でこんな楽しみができるとはな」
その場に一人残されたアル爺は店の奥へと戻っていこうとする。
「すっいまっせーん♪」
「あん?」
急に呼び止められてアル爺が振り返ると、そこには張り付けた様な作り笑いの白髪で色白の男が立っていた。
「何の用じゃ?
ここは基本、一見はお断りしておるぞ」
「あれ? さっきのネイム・レスはいいんですか?」
男がネイムの名前を出し、アル爺は眉を微かに動かした。
「あ? ネイムの知り合いか?
アレは嬢ちゃんの紹介だったからだ。
まぁ話くらいは聞いてやるが……で、おめぇは何者だ?
竜を飼う……って感じじゃないようじゃな」
男の事を品定めするように足の指先から頭のてっぺんまでアル爺は男のことをよく観察する。
男はアル爺の視線に特に動じた様子は見せない。
「飼う予定はないですけど……これから乗るつもりですよ?
アルガド・スクァーマ
かつて、トールキン屈指の竜騎士と謳われた貴方にお聞きした」
「ッ! テメェ……!!」
アル爺は自分のフルネームを呼ばれて驚愕し、咄嗟に隠し持っていた短剣を抜こうとする。
――しかし
「グっ?!」
いつの間にか後ろに現れていた仮面の男が、アル爺の動きを完全に止めてしまった。
白髪の男――ゼクードは抵抗の意思を見せたアル爺をたしなめるように言う。
「安心してください。別にあなたをどうこうするつもりは私にはこれ~ぽっちもないんだし♪
体力も、魔力も衰えた老人の肉体に用は無いですよ。若返らせる術式って疲れるし、手間がかかってしまうからね♪
私はね、若くて、強い肉体が欲しいんだ……♪
アルガド・スクァーマ……教えてもらうよ♪
――貴方がかつてその技術をすべて伝承させた【弟子】の墓の在処を♪」
「な、なにを……!」
抵抗しようにも、アル爺は自身を拘束する仮面の男――サイレントから逃れられない。
そして、ゼクードの腕がアル爺の額を押さえつけた。
「が、ああああああああああああ!!!?」
アル爺の悲鳴が路地裏に響き渡るが、それが他の誰かの耳に届くことは無かった。
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