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当のアルカは気にした様子も無く他の三人にも聞こえるような声で話す。
「ほら、話もついたから、これからしばらくみんなと一緒に馬車に乗ってお友達になる御方との顔合わせよー」
「はい」
「どんな人か楽しみだね」
マリアとマルタはそんな風に談笑しながら部屋を出ていく。
「「……」」
一方でネイムとシオンの表情は固い。
しかしアルカに呼ばれる前に二人は並んで歩きだし、小声で会話する。
「“御方”って……言ったよな?」
「……そうだな。近衛騎士の身分は三国で侯爵と同等と定められている。
アルカ様がただ何の意味も無くそういう言い方をしたのなら話は別だが……もしもそれが正しい使い方だとすれば……」
「要人の身分は侯爵より上……」
自然と、ネイムとシオンの表情は険しくなる。
「ピィ?」
手綱を通じてネイムの意識が流れ込んだのか、サクラは不安そうにネイムの事を見上げた。
「ちょっと、何考えてるか知らないけどサクラがそわそわしてるわよ?
しっかりしなさいよ、ネイム」
「え? あ……ワリィワリィ……………ん?」
先ほど聞いたばかりの声が聞こえて素早くネイムは思考に回していた意識を戻す。
そして声がした前方には……近衛騎士と、メイドたちの中で一際豪華なドレスに身を包んだ黒髪の少女がいた。
近衛騎士も、使用人も、シオンやマリアにマルタも、アルカでさえもその少女がネイムの名を呼んだことに驚いていた。
ネイムも大きく目を見開いて、そこにいる少女の名を呼んだ。
「…………エリー?」
少女――エリーはやれやれと嘆息する。
「まさかとは思ったけど……やっぱりネイムだったのね」
「え? ……お前、なんでここに?
だって……ここは……」
「これ! 候補生風情がなんという口を利くかっ!」
エリーの横にいた付き人がネイムにそんな風に怒鳴った。
「いいの、彼は友人よ」
「しかし……」
食い下がろうとした付き人だが、エリーが無言で微笑んでそのまま付き人を制した。
「さっきは結局名乗れなかったから、改めて自己紹介するわね」
エリーはその場で優雅にネイム達に微笑みかける。
「【トールキン第一皇女】
エクリーヌ・E・トールキンよ。
よろしくね」
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