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受話器を電話機に戻した。
辰巳は脱力しながからたおれこむように近くのソファーへ腰かけた。
ドスンッ
という音と共に辰巳はあることを思った。
これで自分の存在意義がなくなった
と。
辰巳は会社から解雇されたのだ。
それは会社が経営を切り詰めてたからでも辰巳が悪いことをしたわけでもない。
法令で決まってしまったのだ。
"25歳を越えるものはすべて定年とする"
これが今日から施行された。
ちなみにいうと、電話をくれた辰巳の上司も昨日解雇を言い渡されたそうだ。
ショックで辰巳に電話することすらも忘れてしまったという。
しかし、生活できないわけではない。
国から生活金が支給されるとのこと。
老後ともとれるこれからの生活に生き甲斐を感じることがむずかしいということにはすぐに気づいた。
もはや辰巳には生きていく意味がなくなった。
息子を養わなくてもよい、妻を支える必要もない。
これからが辰巳がいなくても成立するこの家族に、生きていく意味を見つけることができなくなった。
これで喜ぶ大人もいるかもしれない。
だが、納得できるはずがなかった。
定年退職された社会人の穴はこれまで一人暮らしを余儀なくされた若者たちで埋めるという。
うまくいくはずがない。
崩れ行く社会を予期しながら、暴走する政権に恐怖を感じた。
ここから恐怖政治は始まったのだ。
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