第零章

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ぶん、と音がする。 最初に目に入ったのは、ただの気泡だった。 そして、ぼんやりとした『意識』に於いて必要不可欠なものは、感覚。瞬きをする。口を開ける。 ごぼり、と気泡が上がった。 目の前には、多くの科学者達がこちらを見上げている。血圧上昇にあるところを見れば、たぶん興奮しているのだろう。黒い髪がうねうねと漂っているなか、ただ瞬きを繰り返すうち、頭の上まで使っている溶液が徐々に吐き出されてゆくことに気付く。 「……」 声は出ない。もしかすると、声帯がまだなじんでいないのかもしれないが、今はどうしようもない。 徐々に徐々に吐き出されてゆくにつれ、無重力状態から重力を感じ始めた。 それから約一分、溶液がすべて吐き出され、裸のままの姿が、科学者達の目に映される。 「調子はどうかな」 ふいに、頭取らしい年老いた男が見上げてきた。 そうは言っても、こちらは声がまだでない。 声帯に異常が起きているのかもしれないが、自分ではどうしようもない。 自分は、ただのAIなのだから。 「まあ、声帯に異常がある事は分かった。さて、君ももう知っているとおり、世界に危機が迫ってきている」 うなずく。 すでにインプットされているのだから、当たり前だ。 今から約20年前、上空におかしなものが現れた。それは徐々に日本を侵し始め、国土の約9分の1が消失してしまっている。ゆっくりとは言え、まずいと思った防衛省が、重工系機械を排出しているテュケー社と組み、大型インターセプターを造りだした。テュケー社はAIを、防衛省はインターセプターを造り、その邀撃機に乗り込ませるために身体が必要だということで合同で作り出したのが「アテュ」と呼ばれる戦闘用擬似人格搭載の自分だ。他にもいるらしいが、今ここにはいない。 「そして、後ろを見たまえ」
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