第零章

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イエソドは、夜空を自らの照準器代わりの目で見るのは初めてだった。 当たり前だろうが、人工脳をゆさぶられるような、そんな衝撃が襲う。 「ようこそ。支援戦闘機FSへ」 機械的な、男かも女かもわからない声が耳朶を通り過ぎた。 支援戦闘機、通称FSは、それだけ言うと、イエソドの体をまるで下から揺さぶるような衝撃を与えた。 ぐらりと身体が傾くが、突起から手を離すことはない。 ゴーグルのなかでは、それに合わせて、ぐん、と空が近くなった。 「これから貴方には、タウとおなじ操縦をして、敵を倒していただきます。操縦方法は、すでにインプット済みかと思われますが、復唱しますか?イエスかノーでお答えください」 「ノー」 そんなもの面倒くさい。 ぷつん、と音がして、LCDモニタに夜空の映像が流れた。 「では、これから敵がこちらに向かいます。貴方は、それを迎撃してください。カウントスタート」 5,4,3,2。 徐々に、音声が遠くなってゆく。ハンドルを握り、上昇し続けているような重力に体を慣らす。 1。 ――ふわり、と、何かが空を舞っている。 まるで、エイのような姿だ。ふわふわと空を飛んでいるそれにできる限り近づくように跳躍する。 空がぐるりと回って、そのエイのような敵に、照準をあわせた。巨大だ。数十メートルはあるかもしれない。 それに接近し続けると、こちらに気付いたのか、きらり、と何かが光る。 反射的にそれを避けると、地上のビル群が爆発した。火の粉が上がり、空を赤く染めた。 「……」 イエソドはそれを見ずに更に加速し、ぶん、と腕をふるうと、エイにそのふるった腕が刺さる。そのまま固定して、タウを模した手のひらから巨大な棘が射出され、エイの体を貫いた。 そのまま、エイは動かなくなった。 「敵影沈黙。テスト第一段階突破を確認」 ノイズまじりの音が聞こえ、ふっ、と息を吐き出す。第一段階があるということは、第二段階もあるということだ。 (まったく、目覚めたばかりだというのに、休む暇さえないのか) 心の中で舌打ちをして、操縦桿を握りしめた。
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