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「洗濯物はこれだけ?」
舞子は病室のベッドで寝ている樋口に、洗濯物を入れたスーパーの袋を見せて訊いた。
樋口は頷いた。
「今日はそれだけ」
樋口は平塚に襲われて救急病院に搬送され、緊急手術を受けた。
その際に医師から説明を受け、同意書にサインしたのは、警察の連絡で駆けつけた樋口の両親だった。
舞子に知らせたのは樋口自身からだった。
舞子はあの日帰らぬ樋口を待っていたが、先に寝てしまった。
朝起きても樋口はいなくて、でも仕事で徹夜することはざらなので、「今日は何時に帰るの?」というメールを樋口へ送り、仕事に行った。
その夜帰宅してもまだ樋口は帰っていなくて、電話もつながらず、メールの返信もなくて、舞子は別れるために自分の前からいなくなったのかと思った。
「それならちゃんと言えばいいのに」
信じる気持ちが半分。
疑う気持ちが半分。
それらがせめぎあい、涙がちょっとだけ出た。
数日後樋口が何者かに襲われて入院していたと知らされたときは、それはそれで驚いた。
駆けつけた病院で、全ては自分のいないところで終わっていたと知ったとき、これが同棲のデメリットなのかと衝撃を受けた。
普段は楽しいだけで何も考えないでよい生活。
問題が発生して、その時に自分たちの関係が砂上の楼閣であったと認識するのだ。
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