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記憶を掘りかえしてみるけれども、何も思い出せない。
俺が前に居た場所も、何をしてたのかも。家族や友人が何人居て、恋人がいたのかいなかったのか(たぶん、居なかっただろう)。
そして一番肝心なのは『自分の名でさえ』も思い出せないことだ。
「……一体全体何がどうなってんだ?」
案外自分の事ながら冷静だな、と思う。名前が分からなくてもこうも冷静でいられるなんて、きっと記憶のあった時の俺は冷めていたに違いない。
なんて客観的に自分のことを考察してみるが徒らに時間が流れていくだけか。
ふと、古い木材で作られた机に目を向ける。何やら紙のような物が蝋燭の横に置かれているのが見えた。
俺は机まで歩くとその紙ーー羊皮紙と呼ばれるそれに書かれた文字を読んだ。
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