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コンコンッ
「失礼します、陸上部の未来ですけど…」
「おー、来たか」
部室で制服に着替え、先輩たちに挨拶を済まし、教官室へ。
中には伊勢谷しかいなかった。
そのせいか、とても静かで、何だか居心地が悪い。
「もう、ほかの先生方はいないんですか?」
なんとなく無言が嫌で話しかけてみる。
「席を外してもらった。ほかの先生がいると話しにくいと思ってな…」
思っていたのと違う返答に、私はえ、と固まってしまう。
「未来、おまえのことについて少し調べさせてもらった。」
「ーーっえ」
調べ、る…?
「おまえ、中3最後の大会、棄権したよな?あのとき、俺もあの会場にいてな。おまえ結構注目されてたし、棄権したって聞いて気になってたんだ。
名の知れた高校ならまだしも、うちみたいな弱小に来るなんて驚いたよ。」
あの大会…
思い出しただけで、足が震える…
「実はおまえの中学の顧問の先生、俺の知り合いでな。この間、連絡して……、未来?」
途中から、話を聞いていなかった。
いや、聞けなくなっていた。
中学は、私の“ひみつごと”であふれている。
それを知られてしまったら、ここにはいられない。
そんなことになったら、私は…っ
「おい、未来!」
もう私に、伊勢谷の声は届いていなかった。
次第に音が遠くなり、視界が端から黒くなり、狭くなっていく。
手足の先の感覚がなくなり、立っていることもできなくなった私は、その場にしゃがみ込むように意識を失った。
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