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一度気になってしまうと集中力が途切れ、何となく気詰まりを感じてしまう。
菜波は給湯室でコーヒーでもいれようと席を立とうとした。後ろを振り向く。
「あの…芳野さんもコーヒー、飲みますか?」
尋ねてみたはいいが返事はない。
芳野は一心不乱に撮ってきた画像に見入っていた。
こうなると誰が何を言っても聞こえないようで、この集中力はたいしたものだと感心してしまう。
ただ、こと切れるといるのが邪魔なほど喋る人物なので、そっと席を立つ事にした。
ポットからコーヒーを注ぐと、鼻をくすぐる芳ばしい香りが菜波の全身を包み込んだ。
一時強張った体がいくらかほぐれてゆく。
一口飲むと思わずため息がこぼれ落ちた。
温かいコーヒーを入れたカップを両手で持ち、ぼんやりと天井を眺める。
ちぐはぐな色のタイルが半端に埋め込まれており、その色を自分の規則性にそってたどってゆく。
上手くいけばあと1時間はかからないだろう。
明日使うのでなければ、直ぐに帰れるのに。
自分でミスをした事が多いに悔やまれる。
そんな事を考えていると、給湯室の扉があいて芳野が顔を出した。
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