12人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんな男はやめなよって言われたから」
「え?」
友香がこちらに一歩近付いてきた。
「あの子も昔、同じような男に騙されたんだって」
ふふ。また笑った。カーテンの隙間から外の明かりが入ってきている。その明かりが友香の顔を照らした。美紀は目を見開いた。
「誰なの?」
友香の顔じゃない。声は確かによく知る友人の声でも、顔は別人だ。口の形や目の形が…彼女の目が…
「その目は…」
彼女の左目は腫れていた。まぶたが切れ、目が血走り、目玉はあらぬ方向を見ている。ああ、と彼女はまぶたを押さえた。
「あなたがさっき蹴ったんじゃない」
友香の声が二重に聞こえた。
ああ、彼女だ。
壁の中で、張り巡らされた電気の中で、彼女の無念は生きていたんだ。
だが、もう一切が手遅れだった。
END
最初のコメントを投稿しよう!