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先生は、メトロノームを“165”の速さに設定し、ピアノの横に置いた。
「貴方は慌てて指を動かすからテンポが合わないんです。
メトロノームをよく聴いて、慌てずに、正確に、強弱にも気をつけて。
分かりましたか?」
「はい、先生。」
少女がレッスン中に発する言葉は「はい、先生。」だけだった。
他に何を言っても、先生は怒るか、怒鳴るか、叩くか、呆れるだけ。
少女はそれを学んだ。
「“165”の曲くらい簡単に弾けないでどうするんですか。
再来週の発表会までに間に合いませんよ。
自覚してるんですよね、貴方は」
「はい、先生。」
少女は思っていた。
そんなことはどうでもいいから早くピアノを弾かせて、と。
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